歯を用いた年齢推定 (東京医科歯科 2012年 化学)

 三度目となる東京医科歯科大の化学です。歯におけるアミノ酸の光学異性体の比によって持ち主の年齢を推定するという、まさに医科「歯」科大を象徴する一問です。前半は知識問題ですが、後半部分については正確な読解力及び計算力が求められます。

但し問14の計算にあたり、以下の値が原文では与えられています。

(問10): ラセミ体

化学履修者であれば落としてはいけない知識問題です。アミノ酸のL体及びD体はそれぞれ旋光性を示しますが、ラセミ体では両者が打ち消しあう為旋光性がありません。また、今回のように一方の光学異性体がもう一方の光学異性体に変換される反応は「ラセミ化反応」と呼ばれます。

(問11): 下図参照

 年齢推定に使用するアスパラギン酸の誘導体化に関する問題です。上の通りアスパラギン酸中の2つのカルボキシル基は2-プロパノールとエステルを形成し、残るアミノ基は無水トリフルオロ酢酸と反応させます。無水トリフルオロ酢酸は見慣れない試薬だと思われますが、反応自体は無水酢酸と全く同じです。本問及び次問はアスパラギン酸の構造を知っていることが前提です。医学部受験生であれば生化学の基本であるアミノ酸20種類の構造は頭に入れておいた方が良いでしょう。

 なお、今回分析に使用するクロマトグラフィーはドーピングの記事で紹介した高速液体クロマトグラフィーではなく、移動相にヘリウムや窒素などの不活性ガスを用いるガスクロマトグラフィーと呼ばれるタイプであると思われます。原理上、測定する化合物も揮発させる必要があり、沸点を下げる目的で極性官能基であるカルボキシ基及びアミノ基を、より極性の低い誘導体化しています。

問12: 下図参照

 L体及びD体はアミノ酸のα炭素を四面体の中心に置いた時、水素、カルボキシル基、アミノ基及び側鎖の位置関係によって定義されます。従ってL-アスパラギン酸は例に示されているアラニンの側鎖をアスパラギン酸のものに入れ替えた上図左の構造になります。よってD-アスパラギン酸はそれと鏡像関係にある上図右側の構造です。

 L-アミノ酸のα炭素(グリシン以外)の立体配座は殆どがS配置ですが、命名法の都合でシステインのみR配置となります。現在でもアミノ酸の立体配座にSR表記ではなく、DL表記が使われる理由です。

問13: kL[L]-kD[D]

 L-アミノ酸からD-アミノ酸、D-アミノ酸からL-アミノ酸への変換はいずれも一次反応であり、その反応速度kL[L]及びkD[D]で与えられます。(2)式の左辺はL-アミノ酸の減少速度を意味するので、右辺はL-アミノ酸からD-アミノ酸への変換速度からD-アミノ酸からL-アミノ酸への変換速度の差であるkL[L]-kD[D]となります。

問14: 81歳または82歳 (計算過程は下記)

 与えられたD-アミノ酸及びL-アミノ酸の比を求めて、(3)式に代入することでtの値が決定されます。その後の式変形及び計算も中々に大変で、計算の順番や有効数字の評価の仕方によってt=78またはt=79と結果が変わってきます。本文の最後に「第一大臼歯の歯冠が完成する生後三年から反応が始まる」とありますので、これを足した81歳または82歳が解となるので要注意です。

コメント

 テーマは面白いですが問題の難易度自体はそれ程高くはなく、医学部受験者層であれば問14以外は落とせません。一方で問14は本問の内容を正確に把握する必要がある上、計算量も多くここで差がつくと思われます。

投稿者: matsubushi

趣味で数学など

歯を用いた年齢推定 (東京医科歯科 2012年 化学)」に2件のコメントがあります

    1. 自前の歯の話題をしっかりと入試問題に落とし込んでいて流石という問題です。

      流石に国公立の医学部ともなると要求レベルが高い..( ˘ω˘ )

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