ベンゼンのニトロ化反応を掘り下げる (2015年 和歌山県立医大 化学)

 
 芳香族化合物のニトロ化は高校化学で習得する最も基本的な反応のひとつであり、「ベンゼンを濃硝酸と濃硫酸の混合物で処理するとニトロベンゼンが得られる」と記載されています。

 教科書的には僅か一行で完了する反応ですが、反応液からニトロベンゼンを単離精製する為には様々な不純物の存在や後処理の問題を考慮する必要があります。

 本問は、ベンゼンのニトロ化反応を行った後の一連の操作にスポットを当てた記述力及び思考力が要求される内容となっています。

解答

問1: ニトロベンゼンを含む有機層の密度は混酸より低く水より高いため

 ニトロベンゼンを含む有機層は極性が低い為、水や混酸とは互いに交じり合わず分液漏斗内において2つの層に分離し、密度の高い方が下層で低い方が上層となります。

 純粋な硝酸及び硫酸の密度は水に対してそれぞれ約1.5倍、1.8倍であるため混酸の密度は純水な水より大きくなります。有機層の正確な密度は分かりませんが、本文の記述より「混酸の密度>有機層の密度>水の密度」と推測されます。

問2: ベンゼンスルホン酸、m-ニトロベンゼンスルホン酸

 芳香族化合物のスルホン化もニトロ化同様最も基本的な反応であり、ベンゼンやその誘導体を濃硫酸中で処理することでベンゼン環に強酸性のスルホ基が導入されます。

 ニトロ化反応で用いる混酸にも硫酸が含まれる為、原料であるベンゼンや生成物であるニトロベンゼンがスルホン化されることで、ベンゼンスルホン酸やm-ニトロベンゼンスルホン酸(ニトロ基はm-配向性の置換基)などが副生成物として含まれる可能性があります。

 ①-1の分液操作では水層が強酸性の混酸である為、これらの有機酸はプロトン化されてニトロベンゼンと同じ有機層に移ると考えられます。

 一方で①-2の分液操作では水層は普通の水であり、スルホン酸系化合物の大部分は水層に移り中性のニトロベンゼンなどの化合物と分離されます。

問3: 酸成分と反応して炭酸ガスを発生する

問4: 炭酸ガスの発生により分液漏斗内の内圧が上昇して上栓が吹き飛ぶ危険性がある為、頻繁にコックを開くことで内圧を下げる

 下線部①-2の分液操作で、有機酸成分の大部分は除かれたと考えられますが1回の分液操作では十分ではない場合も多く、一部のスルホン酸類は有機層に残っていると考えられます。

 炭酸ナトリウム(炭酸ソーダ)はカルボン酸やスルホン酸などの強酸成分と反応して水溶性の塩を形成する為(中性のニトロベンゼンなどは反応しない)、炭酸ナトリウム水溶液用いた分液操作では、残存する有機酸成分を高い効率で水層へ移すことが出来ます。場合によっては炭酸ナトリウムの代わりに炭酸水素ナトリウム(重曹)を用いることがありますが、原理は同じです。

 注意点としてこの反応では炭酸ガスが発生する為、残存していた有機酸が多かった場合に、大量の炭酸ガスによって分液漏斗内の内圧が急上昇します。最悪の場合上栓が吹き飛ぶなどして生成物の損失や実験者の怪我に繋がる為、下図のように分液漏斗を逆さまにして適宜コックを開放することで、発生した炭酸ガスを逃がして内圧を調節する必要があります。

 下線部①-2の分液操作に先立って炭酸ナトリウム水溶液による分液を行う事も可能ですが、この時点では相当量の有機酸が残存している可能性があり、上記の爆発リスクを避けるために、一旦水による有機酸除去を挟んだものと考えられます。

分液漏斗の構造

問5: 有機層に分散していた水が塩化カルシウムによって除去された為

 分液漏斗を用いた水層と有機層の分離操作において、完全に両者の層を分離させることは難しく、一方の層が他方の層に分散した状態(エマルジョン)となっていることが殆どです。

 今回の場合、ニトロベンゼンを含む有機層に少量の水が分散してエマルジョンになることで白濁しているものと考えられます。有機層に混入した水は後々の操作に悪影響を及ぼすことが多いため出来る限り除去する必要があります。

 これに対して硫酸ナトリウムや塩化カルシウムなどの乾燥剤を加えることで、分散していた水が有機層から除去されて透明な液体となります。

問6: ベンゼン

 本文にもある通り、反応液中には未反応のベンゼンが残っています。ベンゼン及びニトロベンゼンは共に中性分子である為、ここまでの分液操作では除去されず残っていると考えられます。

 ベンゼンの分子量はニトロベンゼンより小さく、またニトロ基による分極も無い為、ベンゼンの沸点や融点はニトロベンゼンより小さいと考えられます。従って分留操作によってベンゼンは容易に除去できると考えられます。

 なお、ベンゼン及びニトロベンゼンの沸点はそれぞれ約80℃及び211℃です。

問7: m-ジニトロベンゼン

 ここまで残っている化合物として考えられるのは中性かつ沸点がニトロベンゼンに近い化合物です。これに当てはまる化合物としてニトロベンゼンが更にニトロ化を受けたm-ジニトロベンゼンが挙げられます(ニトロ基はm-配向性)。

コメント

 本問はいわゆる構造決定問題でみられる知識や計算力は殆ど問われず、実験操作に対する適切な理解や考察が要求されます。普段は有機化学分野を得点源としている受験生も思わぬ苦戦を強いられたと思われます。

 とはいえ、実験操作の意味を理解することは極めて重要であり一度は経験しておくべき良問であると言えます。

 

投稿者: matsubushi

趣味で数学など

ベンゼンのニトロ化反応を掘り下げる (2015年 和歌山県立医大 化学)」に2件のコメントがあります

    1. 高校だとなかなか実際の実験をする機会も少ないので、見た目以上に出来が悪そうな気がしますね。

      逆に一度経験してしまうとイメージが出来て、比較的簡単に答えられるのですが..(‘ω’)

      いいね

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