ある三角形の3辺の長さがa, b, cであるとき、面積Sは以下の式で与えられます。
これはヘロンの公式と呼ばれ、紀元1世紀頃(諸説あり)にギリシア人数学者ヘロンにより提唱されたものです。三角形の場合は3辺の長さが定まれば合同条件から形は一通りに定まり、その面積を与えることが可能です。
一方で四角形の場合は正方形とひし形の例からも分かる通り、4辺の長さだけではその形状が確定せず、従って面積を定めることができません。
しかしながらここに「四角形が円に内接する」という条件を加えることで、4辺の長さから対応する四角形の面積を求めることが可能となります。2017年に大阪教育大で出題された本問は円に内接する四角形について、4辺の長さからその面積を求める公式を実際に導くことを目的としています。
解答
(1): 余弦定理に関する基本問題
円に内接する四角形における対角の和は180°であることを踏まえ、対角線ACを共有する二つの三角形に対して余弦定理を適用するだけです。文字が多く登場しますが、内容は教科書~センター試験レベルであり短時間で解答したいところです。
(2): 二乗の差に着目する
与式はいわゆる「二乗の差」の形となっているので、公式に従って因数分解を行います。すると得られた二項もまた整理することで「二乗の差」の形となっていることが分かり、最終的に与式は4つの一次式の積として因数分解されます。
結局は公式に当てはめて因数分解を行うだけなのですが、与式が少々複雑で特に二回目の因数分解に気が付くか否かが鍵となっています。
一見唐突に見える本問ですが、(3)の証明問題における強力な誘導となっています。
(3): (1)と(2)の結果を最大限に利用する
与えられた四角形を対角線ACにより分割することで、求めるべき面積Sは2つの三角形の面積の和に帰着されます。これら三角形の面積を求める為にsinθを求める必要がありますが、ここで(1)で求めたcosθの式と(2)で行った因数分解による式変形が強力な誘導になっていることが分かります。
コメント
(3)が単独で出題された場合は中々の難問となり得ますが、誘導が丁寧になされており標準的な図形問題のレベルに落ち着いています。
本問で示した等式は7世紀頃にインド人数学者によって提唱されたもので、その数学者の名前を取ってブラーマグプタの公式と呼ばれています。式の形は非常に綺麗ですが適用範囲は限定的であり、せいぜいマーク式試験の検算に使えるかもしれないといった程度でしょう。
なお a = 0とすると与えられた図形は三角形となりますが(三角形は必ず外接円を持つ)、この時の式はヘロンの公式と一致します(すなわちブラーマグプタの公式はヘロンの公式を内包する)。
(余談): ブラーマグプタの公式の特殊形と一般化
外接円と内接円の両方を持つ四角形は双心四角形と呼ばれ、この場合四角形の各辺の長さa, b, c, dと面積Sの間に以下の関係が成り立ちます。
これについては、内接円を持つ四角形の図形的特徴とブラーマグプタの公式を組み合わせる形で以下の通り証明が可能です。
また、四角形が円に内接しない場合でも∠Aと∠Cの和を2tとおくことで以下の式が成り立ちます(a, b, c, d, sの定義はこれまでと同じ)。
これは19世紀にドイツの数学者によって示されたもので、その名を取ってブレートシュナイダーの公式と呼ばれます。ブラーマグプタの公式は t = 90°とした場合であり、この公式はブラーマグプタの公式の一般化したものとなります。
なお、この公式も式計算は少々複雑になりますが余弦定理と因数分解を駆使することで高校生でも十分に証明可能です。
かっこいい名前の公式があったのですね。
やはり数学の知識は大切ですね・・・
この辺のマニアックな公式になると完全に趣味の領域な気もします…( ˘ω˘ )