cos1°は有理数か (2018年 藤田保健衛生大学・医)

tan1°は有理数か (2006年 京都大学・後期)

 「tan1°は有理数か」とは2006年の京大後期に出題された大問の1つであり、極めて簡潔ながら発想力及び論証力が問われる良問として、歴代の入試問題の中でも随一の知名度を誇ります。

 有名問題であるため解法は色々なサイトやブログで紹介されていますが、一応以下にその略解を記します。

解答

 
 加法定理を利用する事で、tan(n+1)°をtan1°及びtann°の有理関数として表現することが出来ます。ここからtan1°が有理数であると仮定すれば、帰納的にtan2°、tan3°…、tan89°も有理数となります(tan90°は定義されない事に注意)。

 しかし実際にはtan60°=√3が無理数である為、背理法によってtan1°が無理数であることが導かれます。試験場では√3が無理数である事の証明も記述すべきと思われますが、今回は略解という事で割愛しています。

 多くの受験生は直感的にtan1°が無理数であると予想したと思いますが、実際に示すためには相応の発想力と論証力が問われます。

cos1°は有理数か (2018年 藤田保健衛生大学・医)

 2018年の藤田保健衛生大(現・藤田医科大)で出題された本問は2006年京大の余弦版とも言うべき内容となっています。但し非常に簡潔だった京大の場合と異なり、(1)及び(2)が誘導として与えられ、(3)においてcos1°が無理数であることは示すべき結論として既に与えられています。

 2006年京大入試の解法が非常に有名となったこともあり、ただの二番煎じにも思えますが実際に解いてみるとさにあらず。余弦のn倍角に関する予備知識を持たない受験生にとっては苦戦必至の内容となっています。

(1)の解答

 
 (2)に取り掛かる上での前座といった内容です。多くの受験生は3倍角の公式を暗記していると思われますが、本問の意図を考えると加法定理を利用して導出した方が無難と思われます。

(2)の解答


 京大の場合と同様に帰納的なアプローチを真っ先に考えた受験生は多いと思います。しかし正接の場合と異なり、余弦に対して加法定理を適用すると余弦と正弦が混在してしまいそのままでは帰納法に持ち込むことが出来ません。結局予備知識を持たない多くの受験生がここでギブアップとなったでしょう。

 実際にはcos(k+2)θ及びcoskθについて、加法定理を適用して正弦の項が消えるように足し合わせることでcos(k+2)θをcos(k+1)θ、coskθ、cosθで表すことが出来ます。この流れは三角関数における積和の公式の証明と同じなので、結果が分かっていればcos(k+1)θcosθに対して積和の公式を適用することで同じ結果を得ることが出来ます。

 ここまで来てしまえばcosnθがxのn次多項式であることは帰納的に明らかです。

(3)の解答

 
 京大の時と同様にcos1°が有理数であると仮定すると、これまでの議論から全ての自然数nに対してcosn°が有理数となります。しかしcos30°やcos45°などが反例となり、背理法によってcos1°が無理数である事が導かれます。

 前問まで解答できた受験生であれば問題ないと思いますが、上記の論法は(2)で得られた多項式の係数が全て有理数であることが前提となります。このことはTn(x)に関する漸化式から殆ど明らかですが、言及しなかった場合大幅な減点を覚悟しなければなりません。

コメント

 証明の流れはtan1°の時と殆ど同じなのですが、「tan1°が有理数ならtann°も有理数」は加法定理に代入するだけで容易に導かれるのに対し、「cos1°が有理数ならcosn°も有理数」に関しては初見の場合一筋縄ではありません。結局類題経験の有無がそのまま得点に反映されたものと考えられます。

補足: チェビシェフ多項式

 (2)(3)で示した通り任意の自然数nと実数θに対して、cosnθはある整数係数のn次多項式Tn(x)に対して

cosnθ = Tn(cosθ) (n = 1, 2, …)

 と表現され、このTn(x)は「第一種チェビシェフ多項式」と呼ばれています。nが小さい場合は倍角や三倍角の公式などによりTn(x)を直接求めることも可能で、例えば n = 1, 2, 3では以下通りです。

T1(x) = x
T2(x) = 2x2-1
T3(x) = 4x3-3x


 以降も直接計算することは可能ですがnが大きくなるにつれて複雑になる為、基本的にTn(x)は以下のような漸化式の形で表現されます。

Tn+2(x) = 2xTn+1(x) – Tn(x)

 第一種チェビシェフ多項式は三角関数と多項式関数の懸け橋であり、数学的に興味深い性質を多数持つことから漸化式の導出を含めて大学入試では時々登場します。

 一方のsin(nθ)は必ずしもsinθのみのn次多項式で表現出来る訳ではなく、あるn-1次多項式Un-1(x)が存在して以下の関係式が成り立ちます。

sin(nθ) = Un-1(cosθ)・sinθ

 このUn(x)は余弦におけるTn(x)に対して「第二種チェビシェフ多項式」と呼ばれており、第一種チェビシェフ多項式と同一の漸化式が成り立ちます。

Un+2(x) = 2xUn+1(x)-Un(x)

 よってsin1°が無理数であるかを議論する場合は、cos1°やtan1°で用いた帰納的なアプローチが通用しません。

sin1°は有理数か (帰納的でない手法)

 任意のnについてsin(nθ)をsinθの多項式として表現出来る訳ではありませんが、三倍角の公式「sin3θ = 3sinθ – 4sin3θ」から分かる通り特定のnについてはsinθのみの多項式として表現することが出来ます。

 実はnが奇数であればsin(nθ)はsinθの多項式として表現出来ることが知られており、例えば n = 5のときは「sin5θ = 16sin5θ – 20sin3θ + 5sinθ」となります。そこで、以下のような証明が考えられます。


 実際には3倍角や5倍角の式を自力で導出したり、(√6-√2)/4が無理数であることを示す必要が有りますが恐らく上の解答が最もシンプルではないかと思われます。

 上記の論法はcos1°やtan1°の場合も適用可能ですが、tan1°の場合5倍角の式を導出する手間を考えれば帰納的なアプローチの方がずっと楽でしょう。

 

 

 

 

 

 

投稿者: matsubushi

趣味で数学など

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