ファラデーと蝋燭 (2006年 東大化学・第一問)


 マイケル・ファラデーはその75年の生涯の中において、化学・電磁気学分野を中心に数多くの業績を残しており、19世紀を代表する科学者の一人です。彼が残した実績は枚挙に暇がありませんが、例えば以下の発見・発明はファラデーによるものとされています。

・電気分解の法則 (ファラデー定数など、電気量と電気分解で生じる化合物の物質量に関する法則)の発見
・熱源装置の発明 (現在におけるブンゼンバーナーの原型)
・電磁誘導法則の発見
・反磁性の発見

 一方でファラデーは貧困層出身かつ小学校中退であった為か、教育関係についても熱心に活動を行っていたとされており、一般大衆に向けた数多くの講演活動もその一つです。

 「ロウソクの化学」はファラデーが主催した一般向け講演の中でも最も有名なものの一つですが、これを大学入試に落とし込む姿勢はいかにも東大といった感じがします。

解答

問ア: A-(4) B-(2)

 下線部Aに対応する光は本文中の[原注1]の記述から、銅に対する炎色反応によるものと考えられます。炎色反応により生じる光の波長は用いた金属種に依存しており、この事を説明している選択肢は(4)となります。なお炎色反応を起こす為には金属や金属塩が原子化する必要があり、試料は塩化物など原子化しやすいものを用いる必要があります。

 下線部Bも同じく金属を加熱する事で生じる光ですが、白金は高温でも安定な金属である為炎色反応は起こりません。この光は恒星、白熱電球のフィラメント(主にタングステン)、溶鉱炉の鉄など高温となった物質が一律に発する光であり、その波長は物質ではなく温度に依存します。このことを説明している選択肢は(2)であり、この現象は黒体放射と呼ばれています。

 いずれの問題も記述式であれば非常に答えにくい内容ですが、今回は選択式問題である上に引っ掛けとなるような選択肢も無い為に易しめです。

問イ: 117 g

 多くの受験生が初めてその名を聞くであろうセロチン酸ですが問題文中に分子式が与えられている為、燃焼に関する化学反応式を以下の通り書くことが出来ます。

C26H52O2 + 25O2 → 13CO2 + 26H2O

 すなわち、 1 molのセロチン酸を完全燃焼すると26 molの水が生じます。一方でセロチン酸の分子式及び問題文中で与えられた原子量から、セロチン酸の分子量は396であると決定され、99 gのセロチン酸は0.25 molとなります。

 以上よりセロチン酸99 gの燃焼によって生じる水の総量は比例計算から 0.25 x 26 = 6.5 molであり、質量換算することで117 gであると決定されます。

 題材となるセロチン酸こそ目新しいですが、問われている内容は非常に単純です。また、与えられた数値も計算がしやすいように設定されているので決して落とせません。

問ウ: 石灰石を塩酸に加える事で「CaCO3 + 2HCl → CaCl2 + H2O + CO2」の通り弱酸の遊離反応が進行し、石灰石に「固定」されていた二酸化炭素を取り出すことが出来る。

 問題設定は大仰ですが、要するに二酸化炭素の発生法を記述せよという問題です。「取り出す」という言葉が、単純に二酸化炭素を発生させるだけなのか、捕集までを含むのかが曖昧ですが、もし捕集法にまで言及するのであれば下方置換法となります。

 石灰石を強熱することでも「CaCO3 → CaO + CO2」により二酸化炭素が発生しますが、こちらは900℃以上を維持する必要があるなど実験条件が少々複雑である為、中学生の化学実験でもおなじみである「石灰石+塩酸」の反応を答えておくのが無難と思われます。

問エ: 窒素: 28.0 (原子量に基づく分子量と同じである)
二酸化炭素: 45.6 (原子量に基づく分子量より大きな値となっている)

 標準状態では理想気体1 molの体積は22.4 Lとなります。従って28.0 Lの気体は1.25 molに相当し、表1-1で与えられた各気体の質量から窒素及び二酸化炭素の分子量は

窒素: 35.0 ÷ 1.25 = 28.0
二酸化炭素: 57.0 ÷ 1.25 = 45.6

 とそれぞれ与えられます。一方で問題文中の原子量から計算される窒素及び二酸化炭素の分子量はそれぞれ28.0, 44.0でなので、窒素では殆ど一致する一方、二酸化炭素では原子量に基づいて計算された値より少し大きくなっていることが分かります。

 これは窒素が標準状態で理想気体に近い挙動を取る一方で、二酸化炭素では分子間力の影響で単位体積あたりに含まれる気体分子の総数が増加していることを反映しています。

 本問も単純な比例計算のみで解決する問題であり落とせません。個人的には原子量に基づく分子量との大小関係の比較だけでなく、なぜ差異が生じるのか(或いは一致するのか)について論述させても良かったのではないかと考えています。

 なおファラデーがレクチャーを行った当時アルゴン原子は未発見であった為、当然表1-1にもアルゴンに関する記載はありません。

問オ: Pb(固) + 1/2 O2 (気) = PbO(固) + 219 kJ

 熱化学方程式絡みの問題では面倒な数値計算が付きまとう事が多いのですが、本問の熱化学方程式に対応する熱量はPbO(固)の生成熱である上、問題文にそのものズバリが記載されています。

 生成熱に関する熱化学方程式の定義から、生成物の係数を1とすること忘れてはいけませんが、逆に言えば注意する点はそれくらいと言えます。

問カ: (状態) 液体:気体 = 59:41の共存状態 (温度) 1725℃

 考えやすいように燃焼させる鉛の物質量を1 molに設定すると、問オの熱化学方程式から鉛1 molの燃焼反応で生じる熱量は219 kJとなります。

 この熱はまず25℃であった1molのPbO(固)が融点(885℃)に達するまでの温度上昇に使われます。問題文からPbO(固)のモル比熱は55 J/(K・mol)であるので、この過程で必要となる熱量Q1は以下の通り求めることが出来ます。

Q1 = 55 x (885 – 25) = 47300 J = 47.3 kJ

 融点に達した1 molのPbO(固)はPbO(液)へと融解しますが、この際融解熱として26 kJを消費します。この段階で消費された熱量は47.3 + 26 = 73.3 kJであり、残る熱量は219 – 73.3 = 145.7 kJです。

 続いて1 molのPbO(液)は沸点である1725℃まで温度上昇を続けますが、この際に消費する熱量Q2は問題文中のモル比熱の値から以下の通り求めることが出来ます。

Q2 = 65 x (1725 – 885) = 54600 J = 54.6 kJ

 従って、1 molのPbO(液)が沸点に達した段階で残りの熱量は145.7 – 54.6 = 91.1 kJとなります。この値はPbOの蒸発熱223 kJ/molより小さい為、残存したエネルギーによってPbO(液)の一部がPbO(気)となりますが、残り液体のまま存在します。残る熱量及び蒸発熱の値から、気体及び液体であるPbOの割合は以下の通り定まります。

(気体となったPbOの割合) = (91.1 ÷ 223) x 100 = 40.8% ≒ 41% 
(液体であるPbOの割合) = 100 – 41 = 59%

 以上より反応直後のPbOは気体と液体が混在した状態であり(液体:気体 = 59:41)、その温度は沸点と同じ1725℃となります。

 いわゆる状態変化絡みの熱化学問題ですが、計算量こそ多い物の問われている内容は標準的です。東大受験者であるならば、ある程度時間をかけてでも完答したい所です。

コメント

 高尚なテーマであった上に、大学入試としては問題文が非常に長いため多くの受験生は身構えたものと思われます。しかしながら蓋を開けてみれば、各設問の難易度は問カを除いて教科書~センターレベルに収まっており、問カについても計算量は多いですが東大入試としては標準的な難易度に収まっています。

 よって、本問は完答を前提とした上で如何に手早く処理できたかが鍵となります。今回のように問題文が非常に長い場合、設問を解く上で不必要な情報が混ざっている事も多く、全てを読み込むことは大幅なタイムロスとなります。試験場ではまず設問で何が問われているかを確認し、必要に応じて問題文から情報を拾っていくことで時間を節約する事が可能です。

投稿者: matsubushi

趣味で数学など

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