「愚者の金」 (2019年 東大化学 第2問-II)


 黄銅鉱は最も重要な銅の鉱石鉱物ですが、金色に輝くその見た目から金鉱石と勘違いされることが多く、黄鉄鉱(FeS2を主成分とする鉱石)と共に「愚者の金」の名でも知られています。 

 問題文の通り黄銅鉱の主成分は鉄と銅の硫化塩CuFeS2ですが、鉱石によってはニッケル、錫、銀、亜鉛などの金属種と共に金を微量成分として含んでおり、黄銅鉱から純金を得る事もあながち不可能という訳ではありません。

 本問では黄銅鉱を原料とした一連の実験操作により純銅や純鉄を精錬します。出題範囲は主に無機化学及び理論化学ですが、難易度としては標準的です。

解答

問カ: SO2 (二酸化硫黄)

 主成分の組成式CuFeS2を基に考えると、生じる気体Dは何らかの硫黄酸化物であると推測できます。更に気体Dは水と反応して亜硫酸となる事から二酸化硫黄(SO2)であると分かります(化学反応式は以下の通り)。

SO2 + H2O → H2SO3

問キ: (金属名) カリウム
(理由①) カリウムは水中で酸化されて、速やかにカリウムイオンとなる。
(理由②) カリウムのイオン化傾向は鉄や銅より大きい為、水中で単体として存在したと仮定しても、Cu2+とFe3+の両方を還元してしまう。

 鉄、銅及び選択肢中の金属のイオン化傾向は「K >> Fe > Ni > Sn > Pb > (H) > Cu」である為、Fe3+やCu2+を含む溶液中にNi、Sn、Pbの単体を加える事でCu2+のみを選択的に還元する事が可能です。

 一方でカリウムのイオン化傾向は鉄よりも遥かに大きく、単体はCu2+だけでなくFe3+をも還元してしまうため条件を満たしません。加えてカリウムを含むアルカリ金属は水と激しく反応して酸化されてしまうため、そもそも水中で安定に存在させる事は出来ません(化学反応式は以下の通り)。

2K + 2H2O → 2KOH + H2

 イオン化傾向の大小とアルカリ金属の反応性の両面から論述する必要がありますが、問われている内容はいずれも標準的です。

問ク: アンモニア水溶液 問ケ: Fe(OH)3

 金属イオンの分離に使用される塩基性溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液とアンモニア水溶液を挙げる事が出来ます。

 水酸化ナトリウム水溶液を加える場合、溶液中に存在するCu2+及びFe3+は対応する水酸化物であるCu(OH)2 (青白色)及びFe(OH)3 (赤褐色)として沈殿し、過剰量を添加した場合も沈殿に変化は起こりません。

 一方でアンモニア水溶液を加える場合はじめはやはり水酸化物の沈殿を生じますが、過剰量を添加するとCu(OH)2 は深青色の錯イオン[Cu(NH3)4]2+となって水に溶解します。その一方でFe(OH)3は変化せずに赤褐色沈殿としてそのまま残ります。

 以上より水溶液Xとしてアンモニア水溶液を利用すれば、溶液中のFe3+をFe(OH)3の沈殿としてCu2+ と分離する事が可能であり、これが赤褐色固体Iの正体となります。このことは、実験5において固体Iを強熱することでFe2O3 を生じる事からも支持されます(化学反応式は以下)。

2Fe(OH)3 → Fe2O3 + 3H2

 いずれも金属イオンの分離に関する基本的な知識を問う内容であり、難易度的にはセンター試験や共通試験で出題されたとしても違和感はありません。

問コ: 0.38 mol

 普段は燃料としてのイメージが強いメタン分子ですが、その炭素原子の酸化数は-4と数ある炭素化合物の中でも最も小さく、還元剤としての側面を持ち併せています(メタンの燃焼は最も代表的な酸化還元反応の1つ)。

 下線部②における、メタンによる酸化鉄(III)の還元反応は以下の式で与えられます。

4Fe2O3 + 3CH4 → 8Fe + 6H2O + 3CO2

 多くの受験生にとって初見の反応と思われますが、問題文から酸化鉄(III)とメタンが反応して鉄、水、二酸化炭素が生じる事は読み取れます。後はその場で係数を合わせれば良いだけで、反応式から1 molの鉄単体を得る為に 3/8 = 0.375 ≒ 0.38 molのメタンが必要である事が分かります。

 暗記だけでは解けない内容ですが、問題文をちゃんと読めば答えを導くことは決して難しくはありません。本問のように初見の化学反応式をその場で考えさせる問題は、東大入試においては定番です。

問サ: 6.08 g/L (以下参照)

 固体Gのように銅の精錬の過程で生じる比較的純度の低い(通常は純度99%以下)銅は粗銅と呼ばれます。

 そしてこの粗銅を陽極として電気分解を行う事で、銅や銅よりイオン化傾向が大きな金属(鉄、ニッケル、亜鉛など)は酸化されて電解槽中に溶出し、銅よりイオン化傾向の小さな金属(銀、白金、金など)は陽極泥として電解槽中の底に沈みます(一般に粗銅1tから銀1 kgと金30 gが得られるとされています)。

 今回のケースであれば固体G中の銅及びニッケルは以下の通り酸化を受けて電解槽に溶け出し、金はそのまま陽極泥として沈みます。

Cu → Cu2+ + 2e
Ni → Ni2+ + 2e

 一方で陰極では陽極或いは電解質である硫酸銅に由来する銅(II)イオンが還元され、より純度の高い銅として析出します(純銅、電気銅などと呼ばれる)。

Cu2+ + 2e → Cu

 一方でニッケルは銅よりイオン化傾向が大きいため陰極で還元されることは無く、陽極から溶出した分は全て電解槽中に存在すると考えられます。

 今回の電解精錬では粗銅を構成する金属の物質量比が反応後も一定である為、与えられた電気量は銅:ニッケル = 94:5の比で各々の酸化反応に使用されたと考えられます(金は酸化されない)。従ってニッケルの酸化に使われた電気量、電子の物質量、溶出したニッケルの質量はそれぞれ以下の通りとなります。

(Niの酸化に使われた電気量): 3.96 x 105 x (5/99) = 2.00 x 104 [C]
(Niの酸化で生じた電子の物質量): (2.0 x 104)/(9.65 x 104) ≒ 0.2072 [mol]
(溶出したニッケルの質量): 0.2072 x 1/2 x 58.7 = 6.081… ≒ 6.08 g

 今水溶液の体積は丁度1 Lである為、ニッケル濃度は 6.08 g/Lとなります。

 問題文がやや長く計算も少々煩雑ですが、内容としては電気分解に関するよくあるタイプの問題です。「電気分解の前後で粗銅を構成する金属の比が一定である」という条件が意味するところを読み取ることが出来れば決して難しくはありません。

コメント

 前半部(問カ~ケ)は無機化学に関する知識問題であり、後半部は理論化学に関する計算問題となっています。

 問コの化学反応式を求める部分や問サの計算が少々厄介ですが、どの問題も東大入試としては基礎~標準レベルに収まっており、化学が得意な学生であれば満点も狙えるセットとなっています。

 

 

 

 

 

投稿者: matsubushi

趣味で数学など

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