リチウムイオン電池 (2010年 東大化学 第2問-I)


 大学入試における電池はボルタ電池、ダニエル電池、鉛蓄電池辺りが定番ですが、難関大では燃料電池やリチウムイオン電池を題材として出題されることがあります。

 本問を含めリチウムイオン電池絡みの入試問題は文章量・計算量共に比較的多くなる傾向があり、初見の受験生に取っては苦戦必至の内容となっています。

解答

問ア: 2Li + 2H2O → 2LiOH + H2

 ナトリウムやカリウムと水の反応は良く問われますが、リチウムも同じ一族元素(アルカリ金属)であるため同様の反応が起こります。アルカリ金属の反応性に関する基本的な問題であり、落とす訳にはいきません。 

問イ: 酸素とオゾン (黄リンと赤リン/単斜硫黄と斜方硫黄)

 同素体を持つ元素としては例示されている炭素の他に、酸素、リン、硫黄が挙げられます。他にも窒素、ヒ素、ホウ素、スズなどが同素体を持つことが知られていますが、これらは明らかに高校化学の範囲を逸脱している為、具体的な同素体の名前を挙げながら解答する事は困難でしょう。

 前問と同様にセンター試験レベルの知識問題であり、やはり落とせません。

問ウ: C: Li = 6: 1

 炭素とリチウムから構成される化合物Xの組成を、問題文中の図及び設問で与えられた化合物Xに関する2つの特徴を頼りに決定する問題です。

 まずに問題文の図2-2-(1)及び特徴(1)より、化合物Xがグラファイトの各層の間にリチウム原子が挟み込まれたような恰好をしている事が分かりますが、こうした3次元的な図では基本単位の把握に苦戦します。

 そこで図2-2-(2)のように、炭素の層に挟まれたそれぞれのリチウム原子を直下の炭素層へと便宜的に降ろして、2次元的に考える事にします。すると、リチウム原子1つとそれを取り囲む6つの炭素原子(下図の赤点線の正六角形)を1つの基本単位として捉えることが可能となり、炭素とリチウムの構成比が6:1であると決定できます。


 前二問と比べると難易度は格段に上がり、与えられた図表や文章の意図を正確に読み取る理解力が問われます。とりわけ、与えられた化合物Xの模式図からどのように基本単位となる構造を見つけ出すかが重要となります。

 本問と同様の問題は2006年の京大などでも出題されており、類題経験があった受験生に取っては他と差を付けるチャンスとなります。

問エ: 3.7 x 104 秒 (詳細は以下)

 問ウで求めた組成式及び図2-1から、放電時に負極で起こる反応を以下の通り記述することが出来ます。

LiC6 → Li+ + e + 6C

 従って、0.60 gの化合物Xを負極として放電した場合に生じる電子の物質量及び対応する電気量の最大値はそれぞれ以下の通りとなります。

(eの物質量): 0.60 ÷ 78.9 = 0.00760… ≒ 7.60 x 10-3
(電気量): (7.60 x 10-3) x (9.65 x 104) = 733.4 ≒ 733 C

 他方で「電気量(C) = 電流(A) x 流した時間(秒)」が成り立つので、求める時間をT(秒)と置けば以下の通り計算可能です。

733 = 0.020 x T ⇔ T = 36650 ≒ 3.7 x 104 (秒)

 問エ自体は電気量と電流に関する基本的な内容さえ理解していれば少々面倒な計算問題といったレベルなのですが、生じる電子の物質量を決定する為には化合物Xの式量が必須であり、結局問ウを正答する必要があります。

 問ウに関して自信を持って解答できた受験生は何としても抑えておきたい内容ですが、そうでない場合は後回しにするのが得策でしょう。

問オ: x = 0.47, y = 0.19

 問題文の記述により充電時の正極では、以下の2つの反応式((A)及び(B))により電解質にリチウムイオンが放出されます(各反応は完全に進行する)。

反応式(A): LiCoO2 → Li(1-x)CoO2 + xLi+ + xe
反応式(B): LiCo(1-y)AlyO2 → Li(1-x)Co(1-y)AlyO2 + xLi+ + xe

 ここで反応式(B)を通じて充電された電気量が9.65 x 102 Cである事から、反応式(B)で放出された電子及びリチウムイオンの物質量は1.00 x 10-2 molとなります。充電による正極の質量減少は放出されたリチウムイオンの質量に相当する為、LiCo(1-y)AlyO2の重量の減少分は6.9 x 10-2 gと計算されます。

 また正極を構成する2つの化合物の式量を比較するとLiCoO2の方が大きい為、等しい質量の化合物を用いた場合の物質量はLiCo(1-y)AlyO2の方が大きく、xの値が一緒であれば質量の減少分(リチウムイオンの放出量)はLiCo(1-y)AlyO2の方が大きくなるはずです。

 問題文の記述より充電後の両化合物の質量差が4.2 x 10-3 gであることから、LiCoO2の質量減少量(リチウムイオンの放出量)は6.48 x 10-2 gと計算されます。ここで反応式(A)におけるLiCoO2とLi+の反応比が1 : xであることから、以下の通りx = 0.47を得ることが出来ます。

(1.96 ÷ 97.8): ((6.48 x 10-2) ÷ 6.9) = 1 : x ⇔ x = 0.468… ≒ 0.47

 更に反応式(B)においてもLiCo(1-y)AlyO2とLi+の反応比がおよそ 1 : 0.468であるので、y = 0.19を得ることが出来ます。

(1.96 ÷ (97.8 – 31.9y)) : 1.00 x 10-2 = 1: 0.468 ⇔ y = 0.190… ≒ 0.19

 十分な時間の元で落ち着いて考えれば決して解けない内容ではありませんが、問題の全体像を把握するだけでも大変な上、計算量も相当なものとなっています。試験場では時間が余るか、他に解くべき問題が無い状況でもない限り後回しにすべきでしょう。

コメント

 各小問ごとの難易度差が激しい構成となっており、典型元素に関する基礎知識を問うている問ア及びイについては完答する必要があります。

 続く問ウは類題経験の差がものを言い、初見であれば難儀する内容ですが結論をある程度知っていれば短時間で解答する事が出来ます。問エに関しては標準的な難易度の計算問題ですが、問ウが解答できていないと手が出せないため正答率は低めであったと考えられます。

 残る問オについては相応の読解力と計算量が要求されるため、試験場では捨て問として諦めるのも一つの手であったかもしれません。

 余談ですが2019年に吉野彰博士がリチウムイオン電池に関する研究でノーベル化学賞を受賞しており、出題する大学が増加するかもしれません。

投稿者: matsubushi

趣味で数学など

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