安定同位体の実在性 (2021年 慶応大・医)


 今年の慶応医学部最初の大問は8つの選択肢から条件に合うものを2つ選ぶという内容で、僅かに二題しかありません。いずれも内容は標準的ですが、1つでも間違ってしまえば大問の半分を落とすことになる為、緊張感はかなりのものです。

 また最初の設問では誤りを含む記述、後半の設問では正しい記述を選ぶ形式となっており、問題文の見落としには要注意です。

1の解答: ③と⑦

①及び②: いずれも正しい。原子番号が同じで中性子数(質量数)が互いに異なる各種は同位体と呼ばれますが、同素体とは全く異なる概念です。

③: 誤り。電子親和力は原子が電子1つを受け取って1価の陰イオンとなる際に放出されるエネルギーを指します。なお希ガスやベリリウムなど一部の原子は電子親和力が負の値を取る為、こうした原子に関しては判断が難しい部分があります。しかし、他の選択肢を考えるならば③を解答の1つとすべきと判断します。

④: 正しい。不対電子は基本的に不安定なので他の不対電子を持つ原子との間に共有結合を形成し、この不対電子の数は原子価と一致します。

⑤: 正しい。原子番号の比較的小さい原子は1つ以上の安定同位体を持つ事が普通ですが、唯一の例外として原子番号43番のテクネチウム(Tc)が挙げられます。テクネチウムは中性子と陽子の比率に関する要因から安定同位体を持つ事が出来ず、1937年に初の人工放射性元素として発見されるまで長らく、周期表における空欄として存在し続けていました。

 なお、現在ではスペクトル観測からベテルギウスなどの赤色巨星にはテクネチウムが存在する事が報告されており(wikipediaより)、これを「天然」に含むのであれば本記述は誤りという事となってしまいますが、おそらく作問者はこの事は念頭に入れていないものと思われます。

⑥: 正しい。電子殻が収容可能な電子数は、内側(K, L, M, …)から順番にn = 1, 2, 3, …とすると2n2で与えられます。

⑦: 誤り。遷移元素は周期表の3~11族までを指しており、12族元素は遷移元素に含まれません。

⑧: 正しい。希ガスを含め、原子の第一イオン化エネルギーは周期表の右上に向かって大きくなります。なお、第一イオン化エネルギーが最大の原子はこの原則に従ってヘリウムとなりますが、最小の原子は左下のフランシウムではなくセシウムのようです。

2の解答: ③と⑧

①: 誤り。陽極では塩化物イオンが酸化されて塩素が発生します。

②: 誤り。電子は負極から正極に向かって流れだします。

③: 正しい。鉛蓄電池の負極は鉛の単体、正極は酸化鉛(IV)です。

④: 誤り。鉛蓄電池の放電反応では、酸化鉛(IV)ではなく硫酸鉛(IV)が生成します。

⑤: 誤り。①と同様に陽極では塩素が発生します。

⑥: 誤り。陰極では銅(II)イオンが還元されて金属銅が析出します。

⑦: 誤り。ボルタ電池では希硝酸ではなく、希硫酸を使用します。希硝酸は酸化力の強い酸である為、副反応の進行が懸念されますが詳細は不明です。

⑧: 正しい。両電池は使用する電解質や内部構造に違いはありますが、いずれも正極に酸化マンガン(IV)、負極に亜鉛が使用されています。

コメント

 問われている内容の大部分は標準的ですが、1番の⑤や2番の⑧などややマニアックな選択肢も含まれています。特に⑤については日頃から周期表や資料集などを眺める習慣のあった受験生であればテクネチウムの存在に気付いたと思われますが、そうでなければ厳しいと言わざるを得ません。

 とはいえ、しっかりと学習している受験生であれば多少マニアックな選択肢が存在したとしても消去法などにより対処可能であり、難易度しては低めです。

 但し上記のように、「天然」の範囲を宇宙空間まで拡張してしまうと⑤と記述も誤りとなってしまうため、この部分を大学側が如何に判断するのかは気になる所です。

投稿者: matsubushi

趣味で数学など

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