微生物の殺菌法 (2021年 東京医科歯科大)

 医科歯科の化学、とりわけ有機分野は大学の独自色が強く出る傾向にあり、その多くは医療に絡めた内容となっています。

 今年の医科歯科の有機化学は微生物の滅菌に関する出題となっており、去年から今年にかけて大流行した新型コロナウイルスを意識した内容となっています。

問題文及び設問

解答

問1: 下図参照

 与えられた分子式からエチレンオキサイドの不飽和度は1であり、不飽和結合を持たないことから環構造を持つ事が分かります。これを満たすのは以下に示す3員環エーテル構造のみです。

 
 エチレンオキサイドを直訳すれば「エチレンの酸化物」であり、その名の通り高温・高圧条件でエチレンと酸素を反応させることで工業的に合成されます。なお分子式C2H4Oで与えられる化合物はエチレンオキサイドとアセトアルデヒド(ビニルアルコール)のみです。

問2 (1): 2C2H4O + 5O2 → 4CO2 + 4H2O (2): 下記参照

 (1)はよくあるアルコールや炭化水素の燃焼反応と同じであり、両辺の原子数が釣り合うように係数を整えるだけです。

 (2)も反応自体は聞きなれないものですが、エチレングリコールの構造式さえ知っていれば、以下の通り問題文を化学反応式に”翻訳”するだけです。


 一般的には化学的に安定とされるエーテル化合物ですが、エチレンオキサイドのような3員環エーテル化合物はエポキシドと呼ばれ、例外的に高い反応性を持つ事が知られています。これは3員環の存在により分子が非常に歪んだ形になっている事が原因であり、エポキシドは水、アミノ酸、核酸など様々な分子種と反応することで分子内の歪みを解消しようとします。

問3: (1) 10種類 (2) 下図参照

 (1)に関しては化学というよりは数学における場合の数のような問題です。トリハロメタン類に含まれるハロゲン原子の種類に応じて以下の通り場合分けを行います。

① X1~X3が全て同じ原子
→ これはクロロホルム、ブロモホルム、ヨードホルムの計3通りです。

② X1~X3のうち2つが同じ原子で残り一つが別の原子
→ 2つ存在するハロゲンの選び方が3通り、残り1つのハロゲンの選び方が2通りなので全体では6通りとなります。

③ X1~X3が全て異なる原子
→ ブロモクロロヨードメタン(CHBrClI)のみの1通りです。

 以上①~③を合わせて答えは10種類となります。このうち光学異性体を持つものは③のブロモクロロヨードメタン(下図)のみとなります。X1~X3にどのハロゲンを入れるかは任意ですが、2つ以上記入してしまうと不正解です。


 今回はCl, Br, Iの3つのみで考えましたが、Fを含めると理論上20種類のトリハロメタン類が存在する事になります。考え方は本問と同様なので気になった人は自分で計算してみると良いでしょう。

 これは完全な余談ですが、炭素に4つの異なるハロゲンが結合したブロモクロロフルオロヨードメタン(CBrClFI)は、その単純さとは裏腹に化学合成が実現していない分子であるという事です。

問4: ホルマリン 

 医学部受験者であれば(そうでなくても)知っておかなければならない、基礎的な知識問題です。

問5: ウ、カ

 センター(共通)レベルの正誤選択問題であり、こちらも落とせません。なお、各文章の正誤に関しては以下の通り。

ア: 誤り。これはヒドロキシル基に特徴的な性質である。
イ: 誤り。なお、アセトアルデヒドはヨードホルム反応に陽性である。
ウ: 正しい。銀鏡反応の説明で、アルデヒド基の検出に利用される。
エ: 誤り。ホルムアルデヒドの酸化によって生じるのはギ酸である。
オ: 誤り。ホルムアルデヒドを含むアルデヒド類は中性化合物である。
カ: 正しい。フェーリング反応の説明で銀鏡反応と同様にアルデヒド基の検出に利用される。但し、ギ酸など一部の化合物はフェーリング反応に対して陰性なので注意。

問6: (1) クメン (2) 下図参照

 (1)はフェノール合成に関する知識問題であり、極めて基本的です。

 (2)ではp-クレゾール合成時に起こる副反応を図3-2と問題文を参考に考えます(原子量は H = 1, C = 12, O = 16)。

 化合物Eの分子量は136なので1.00 x 10-3 molは136 mgとなり、ここから完全燃焼で生じる二酸化炭素及び水の重量から136 mgを構成する炭素、水素、酸素の質量はそれぞれ108, 12, 16 mgとなります(文脈上他の原子は含まれないと判断)。

 よって化合物Eの組成式はC9H12Oであり、分子量から判断して分子式も組成式と同一である事が分かります。加えて副反応ではイソプロピル基は変化しておらず、得られる化合物Eは塩化鉄(III)に対する呈色反応からフェノール性水酸基を持つ事が推測されます。

 以上より化合物Eは下図に示すp-イソプロピルフェノールであると判断されます。また、イソプロピル基の酸化分解によってp-クレゾールと共にアセトンが得られたことから、下図赤色部分の炭素を考える事で化合物Eと共に生じた分解産物Fはホルムアルデヒドであると推測されます。

コメント

 医療や時事問題に関連する内容を出すのは医科歯科における例年の傾向ですが、ここ2年については分量・難易度の両面から非常に解きやすくなっています。本問に関しても問6(2)は発想力が必要でやや難しいですが、残りは基礎~標準レベルの問題が並んでいます。

 コロナウィルスの影響による現役生の習熟度不足を配慮した可能性もありますが、医科歯科受験者層のレベルを考えれば完答を前提としたい所です。

 但しこの難易度傾向が来年以降も続く保証は無いため、医科歯科受験者は2019年以前の過去問にも目を通しておくべきと思われます。

 

 


投稿者: matsubushi

趣味で数学など

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