素数であるという事 (2021年 東京学芸大)


 素数絡みの整数問題は大学入試において頻出であり、本問もそうした問題の一つです。n, kと2つの文字について同時に考える必要がある上に誘導も無い為、素数や整数に対する実戦経験がものを言います。

解答

 自然数n, kに対して a(n, k) = nk + k と定義する。
 
 次に自然数nを固定し、a(n, 1), a(n, 2), …, a(n, k)が全て素数となるようなkの条件について考える。

n = 1の時

 a(1, 1) = 2, a(1, 2) = 3 は素数であるが、a(1, 3) = 4は合成数である。従って、a(1, 1), a(1, 2), …, a(1, k)が全て素数となるような自然数kの最大値は2である。

nが3以上の奇数の時

 a(n, 1) = n+1は4以上の偶数であり、2を素因数に持つ合成数となる。従って、 a(n, 1), a(n, 2), …, a(n, k)が全て素数となるような 自然数kは存在しない

nが偶数の時

 a(n, 2) = n2+2は4以上の偶数であり、2を素因数に持つ合成数となる。 a(n, 1), a(n, 2), …, a(n, k)が全て素数となるような自然数kの最大値は高々1である。

 以上の議論より a(n, 1), a(n, 2), …, a(n, k)が全て素数となるような自然数n, kに対して、取り得るkの最大値は2である。

コメント

 登場する2つの文字のうちnを固定して、与えられた式をkに関する数列であると捉える事が最初のポイントです。

 この時、nが奇数ならば「偶数→奇数→偶数→…」、nが偶数ならば「 奇数→偶数→奇数→… 」といずれも正の奇数と正の偶数が交互に並びます。

 この事に気付いてしまえば後は、「偶素数は2のみである」という基本的事実に基づいて場合分けを行うだけとなります。設問はやや大仰なものの、得られる結論は非常に単純です。

 上記のように方針さえ立ってしまえば記述量・計算量は少ないため、素数絡みの整数問題に慣れていれば短時間で解き切ることが可能です。第1問目という事もあり、手早く捌ければ他の受験生に差を付ける事が出来たことでしょう。

乾燥耐性とトレハロース合成 (2021年 東大生物 第1問-II)

 今年の東大生物第1問の前半はクマムシの乾眠と遺伝子に関する話題でしたが(参照: https://wp.me/pbB1S2-O7)、後半も引き続き多細胞生物の乾燥耐性がキーワードとなっています。

 扱う生物はクマムシから線虫に代わり実験内容も前半とほぼ独立していますが、事前曝露の説明や意義に関しては、前半の記載を参照する必要があります。

 なお、問Hに関して大学側より以下のような訂正がありました。「原料」という表現は科学的に適切でないとは思われますが、訂正前であっても意図を汲み取る事は十分可能であり、仮に見落としたとしても解答に影響は無かったと思われます。

解答

F: 1-解糖系 2-クエン酸回路 3-電子伝達系 G: 酸化的リン酸化反応

 いずれも好気呼吸に関する基本的な知識問題であり絶対に落とせません。問Fの空欄補充は文脈上順不同では無いため、ケアレスミスに注意が必要です。

H: (3)

 問題文及び図1-5の情報よりある種の線虫は事前曝露を受ける事でトレハロースの蓄積を開始し、この際基質であるグルコース由来代謝物G1及びG2に加えて反応を触媒する酵素Pの存在が重要であることが読み取れます。

 これに対し実験4で得られた変異体Xは野生型と比べて乾燥耐性が低下しており、図1-6の通り事前暴露後のトレハロース蓄積量が減少しています(但し、少量ながら蓄積はしている)。

 本問では変異体Xにおけるトレハロース蓄積量減少の原因を実験4の結果のみから考察し、5つの選択肢から解答します。

選択肢(1)及び(4)
 図1-7から分かる通り変異株Xもトレハロース合成に必要な酵素Pを保有しており、その活性も基質が十分に存在すれば野生型と同程度です。すなわち酵素Pの発現量或いは活性低下がトレハロース蓄積量低下に繋がっているとは考えづらく、答えから除外することが出来ます。

選択肢(2)
 仮に変異体Xにおいてトレハロースが酵素Pを介さずに合成されているとすれば、二重変異体P:Xにおいてもトレハロース蓄積が確認される筈です。
ところが図1-6が示す通り変異体P、二重変異体P:Xの両方でトレハロースの蓄積が確認されていません。従って野生型及び変異体Xの両方について、トレハロース生合成は酵素Pを介してのみ行われると考えられ、答えから除外する事が出来ます。

選択肢(3)及び(5)
 上記の通り酵素Pの活性及び発現は変異体Xでも維持されており、代替経路も存在していません。従ってトレハロースの原料である基質G1及びG2の不足が有力な原因と考えられます。
 G1及びG2に言及している選択肢は(3)及び(5)ですが、仮にG1及びG2を産生する酵素の量が増加すればG1及びG2の産生量も増加し、逆に酵素Pを介したトレハロース蓄積を促進すると考えられます。従って選択肢(5)も答えから除外され、選択肢(3)のみが残ります。

 答えが1つだけであると最初から知っていれば選択肢(3)を選ぶことはそれ程難しくないと思われますが、複数選択可能である点が本問の難易度を引き上げています。特に選択肢(2)はやや引っ掛け感があり、図1-6で二重変異体を作成した意図を正しく汲んで除外出来たかが鍵と言えます。

I: 遺伝子Xトリグリセリドからグルコースを合成する経路に関与し、グルコースを原料とする基質G1の産生を高め、酵素Pによるトレハロース合成に寄与する。(73字)

 問題文の最終行「線虫はアミノ酸や脂質を原料としてグルコースを合成できることが分かっている」という記述が本問を考える上で重要となります。すなわち、トレハロースはグルコースを原料として生合成されますが、仮にグルコースが不足していたとしても以下の通り脂質やアミノ酸を原料に合成することが可能です。

脂質・アミノ酸 → グルコース → 基質G1 → (基質G2) → トレハロース

 実験5では標識酢酸を線虫に投与する事で最初に脂質の主要成分であるトリグリセリドを14Cで標識し、その後脂質の行方を14Cの放射線を指標として以下の通り追跡しています。

野生型
 14C標識されたトリグリセリドは殆ど消失し、代わりに14C標識されたトレハロースが大量に蓄積しています。従って野生型では「脂質→グルコース」の経路が亢進しており、脂質から合成したグルコースを原料に大量のトレハロースを蓄積していると考えることが出来ます。

変異型X
 実験4の場合と同様に事前暴露後のトレハロース蓄積が減少しており、14C標識トリグリセリドが完全に消費されず残存しています。従って、変異型Xでは「脂質(トリグリセリド)→グルコース」の経路が十分に機能しておらず、結果としてトレハロースの原料となるグルコースが不足した状態と考えられます。

 前問の段階でトレハロース蓄積量が減少した原因として基質G1及びG2の供給不足が既に予想されていましたが、実験4の段階では問題となる経路(「脂質(アミノ酸)→グルコース」「グルコース→G1」「G1→G2」等)は特定できていませんでした。

 これに対し実験5の結果から、変異型Xにおける基質不足の直接的な原因として「トリグリセリド→グルコース」の経路の機能低下が有力視され(グルコース以降の経路に問題が生じているならば、少なくとも14C標識トリグリセリドは消費されている筈)、後はそのことを設問の指示通り記述します。

 必要キーワードが多い割に字数制限が厳しい為(2行なので60~80字程度)、要点を絞って簡潔に記述する必要があり、大論述とは別の意味での記述力が問われます。最初から2行で収めようとするのではなく、まずはざっくりと記述した後に不要な箇所を削ってゆくと良いでしょう。 

コメント

 基礎的な知識問題であるF及びGは完答必須として、実質的には後半2問の勝負となります。H, Iともに内容自体は標準的ですが、Hは複数選択可能であり、Iは字数制限が厳しく決して簡単ではありません。
 個人的にはHを落とすと他の受験者に差をつけられてしまい、Iをしっかり解答できれば他の受験生に差をつけることが出来ると考えます。

備考: トレハロースについて 

 トレハロースはマルトースと同様にグルコース二分子から成る二糖類ですが、両者ともアノマー位のヒドロキシル基をグリコシド結合に利用している為、スクロースと同様に水溶液が還元性を示さないという特徴があります。



 クマムシも乾眠時にトレハロースを蓄積することが分かっていますが、トレハロースの具体的な役割に関しては諸説存在し、未だに決着はついていないようです。

強いクマムシと弱いクマムシ (2021年 東大生物・第一問-I)


 

 
 クマムシとは緩歩動物門に属する生物の総称であり、これまでに1000を超える種が陸上・水中問わず報告されています。名前に「ムシ」とついていますが、節足動物と比較すると原始的であり、回虫や蟯虫といった線形動物に近いようです。

 系統樹的にはマイナー感が否めないクマムシですが、ヨコヅナクマムシなどある種のクマムシは乾燥状態下で「乾眠」という現象により、体中の水分を失うと共にほぼ全ての生命活動を停止します(図1)。

 驚くべきことに「乾眠」状態にあるクマムシは環境ストレスに対する極めて高い耐性を獲得します。絶対零度に迫る低温や100℃近い高温、あるいは真空や人工ダイヤモンド合成に必要な高圧など、通常では考えられな程過酷な状況に置かれたとしても、給水するだけで生命活動を再開するとされています。

 これは納豆菌などの微生物が胞子を形成する事で環境ストレスに対する耐性を獲得する現象に似ていますが、多細胞生物でこうした性質を持つものは稀である為研究対象となっています。

 本問は3種類のクマムシにおける乾眠に関する性質の違いに着目し、特定の遺伝子がクマムシの乾眠に与える影響を考察させる内容となっています。

解答

A: 脂質膜の主要構成成分であるリン脂質は分子内に親水基と疎水基の両方を持つ両親媒性物質である。水の存在下におけるリン脂質は互いの疎水基が内側を向き、親水性が外側を向いた二重膜構造を取ることで安定化し、これが生体膜の構造維持に大きく寄与している。(120字)

 この問のみ本文の内容とは殆ど関係は無く、生体膜の形成に関する事前知識に基づいた記述問題となっています。生体膜の構成成分であるリン脂質の両親媒性に着目して記述すればよいのですが、3行程度(約100~120字)と記述量はやや多めなので日頃の演習量の差が出ると思われます。

 主要構成成分としてリン脂質を挙げた上でその両親媒性に言及し、水中で二重膜構造を取る事を記述すれば大筋は大丈夫なはずです。

B: ヨコヅナクマムシ – (3) ヤマクマムシ – (5)

 文Iと実験1, 2の結果から2種類のクマムシが乾眠を正しく行うために必要な条件を考察します。

実験1について 
 ヨコヅナクマムシとヤマクマムシはいずれも乾眠を行う能力を持っていますが、その条件に関して以下のような違いが見られます。

ヨコヅナクマムシ
→突然の強い乾燥曝露に対して即座に乾眠状態となり、生存する事が出来る。

ヤマクマムシ
→突然の強い乾燥曝露に対してはなすすべなく死滅するが、事前に弱い乾燥状態(事前曝露)に置くことで何らかのスイッチが入り、続く強烈な乾燥曝露に対して乾眠状態を取ることが出来るようになる。

 実験1よりヤマクマムシは事前の弱い乾燥状態が引き金となり、そこで初めて乾眠可能な状態へと移行することが分かります。一方でヨコヅナクマムシは常に乾眠可能な状態を維持しています。いずれの種も適切な手順を踏めば乾眠状態に入ることは出来る為、この段階で選択肢(6)の可能性は排除されます。

実験2について
 次に転写阻害剤や翻訳阻害剤を投与する事で、事前曝露や乾燥曝露後のmRNAやタンパク質合成を阻害します。乾燥曝露なし・阻害剤処理の条件でいずれの種も生存していることから、この段階で選択肢(1)の可能性は除外されます。

 よって残る選択肢(2)~(5)という事になりますが、これまでの議論と実験2の結果から以下のように結論づける事が出来ます。

ヨコヅナクマムシ
→ 転写及び翻訳阻害剤を添加した条件下においても、乾燥曝露に対して即座に乾眠状態となる事が出来る。すなわち事前曝露以前の時点で乾眠に必要な遺伝子の転写・翻訳は完了しており、対応するタンパク質を常時保持した状態であると考えられるので答えは(3)

ヤマクマムシ
→ 転写または翻訳阻害剤添加によって、事前曝露を行った後であっても乾眠が出来なくなる。すなわち事前曝露以前は乾眠に必要なタンパク質をコードしている遺伝子は転写も翻訳もされておらず、事前曝露によってはじめて転写・翻訳が開始されると考えられるので答えは(5)

 比較的読み取り易いデータが多く、選択肢も紛らわしいものが少ないため難易度は低めです。但し実験2おける翻訳阻害剤添加の結果は図1-3に掲載されておらず、文章中で手短に言及されているだけなので見落としに注意が必要です。

C: (遺伝子名): 遺伝子B
(理由): 遺伝子Bは事前曝露処理によって転写量が増加し、翻訳阻害剤による影響を受けない。従って調節タンパク質を介さず、乾燥ストレスに直接応答して転写が開始される初期遺伝子と考えられる。

 ここから文2及び実験3の結果に関する考察に移ります。上記の通りヤマクマムシはヨコヅナクマムシと異なり、通常の環境条件では乾眠に必要な遺伝子の転写・翻訳は行われておらず、事前曝露によるストレスを引き金に転写・翻訳が開始されると考えられます。

 このようなストレス応答には複数の遺伝子が関わっていることが多く、今回はそのうち3つの遺伝子(A, B, C)に着目しています。いずれの遺伝子も事前曝露による乾眠能の獲得に必須ですが、実験3の結果からその転写・翻訳のタイミングが異なっている事が分かります。

遺伝子A
→ 事前曝露後に初めて転写が開始される遺伝子であるが、その転写は転写阻害剤のみならず翻訳阻害剤の添加によっても完全に抑制されている。すなわち、事前曝露後に翻訳される調節タンパク質の存在が転写開始に必要である可能性が高く、後期遺伝子であると考えられる。

遺伝子B
→ 事前曝露後に初めて転写が開始される遺伝子であり、その転写は転写阻害剤により完全に抑制される一方で翻訳阻害剤による影響を受けない。すなわち、事前曝露を受けて最初に転写が開始される遺伝子であると考えられ、これが乾燥ストレスに対する初期遺伝子と考えられる。

遺伝子C
→ 遺伝子AやBと異なり、事前曝露を行う前から常に転写・翻訳が行われている。従って遺伝子Cは乾燥ストレスに対する応答ではなく、乾燥ストレスの感知やシグナル伝達に関わる遺伝子であると考えられる。

 以上より乾燥ストレスに対する初期遺伝子は遺伝子Bと考えられます。

 対応する文章や実験項は短いものの、答えと共に選んだ根拠を記述する必要がある為難易度は前問より高めです。常に発現している遺伝子Cが初期遺伝子で無い事はすぐにわかると思いますが、遺伝子AとBの違いついては調節タンパク質の機能を正しく理解し、転写阻害剤と翻訳阻害剤の役割を見抜く必要があります。

D: ヨコヅナクマムシ-(1) 種S-(4)

 Cで答えた通り、遺伝子Aは乾燥ストレスに対する後期遺伝子と考えられます。これまでの実験結果や設問文の情報からヨコヅナクマムシ及び種Sにおける遺伝子Aの状況について、以下の通り考える事が可能です。

ヨコヅナクマムシ
→先にも記した通り、本種は乾眠に必要な遺伝子の転写・翻訳を常に行っていると考えられる。従ってタンパク質Aに関しても事前曝露の有無によらず常に保有していると考えられ、対応するグラフは(1)である。

種S
→遺伝子Aを持っているが、事前曝露の有無に拠らず乾眠を行う事が出来ない種である。一方で遺伝子Aを強制発現することによって、乾燥曝露に対する生存率が上昇したことから遺伝子Aの機能は維持されていると考えられる。従って種Sは遺伝子Aの転写・翻訳の制御に問題があり、事前曝露の有無によらずタンパク質Aを作ることが出来ないと考えられ、対応するグラフは(4)である。

 ヨコヅナクマムシに関しては特に問題はありませんが、種Sについては設問文の記述を踏まえた考察が必要となります。強制発現に関する結果から、遺伝子Aの機能は正常であり、その発現制御に問題がある事に気が付けるかが鍵となります。

 今回の結果だけでは種Sが乾燥ストレスに対する耐性を持たない原因を特定する事は出来ませんが、例えば遺伝子Aに対する調節タンパク質遺伝子の欠損や機能低下、或いは乾燥ストレスの感知に関する問題などが考えられます。

問E: 薬剤Y-(1)(2)(3) 薬剤-(4)(5)

 薬剤Y及びZは共にヤマクマムシの乾燥ストレス応答を阻害しますが、これまでの議論と遺伝子A及びBの転写解析の結果からその作用点を以下のように推測する事が可能です。

薬剤Y
 初期遺伝子である遺伝子BのmRNA量が低下していることから、薬剤Yは初期遺伝子の転写を直接阻害するか、更に上流であるストレスの感知或いはシグナル伝達を阻害して、結果的に遺伝子Bの転写量を低下させたと考えられる。
 また、初期遺伝子の転写が阻害されれば、下流の後期遺伝子の転写も阻害されると考えられ、遺伝子AのmRNA量が低下した事実とも矛盾はない。
 一方(4)以降の経路を阻害した場合遺伝子BのmRNA量に変化はないはずなので、薬剤Yの作用点としては当てはまらない。以上より薬剤Yの作用点として考えられるのは(1)(2)(3)のいずれかである。

薬剤Z
 初期遺伝子である遺伝子BのmRNA量は変化していない事から、初期遺伝子の転写及びその上流は作用点として除外される。また(6)や(7)を作用点とするならば後期遺伝子である遺伝子AのmRNA量も変化しないはずなので、これも除外される。
 従って残る可能性は(4)または(5)であるが、いずれを阻害したとしても実験結果と矛盾しない為薬剤Zの作用点として考えられるのは(4)(5)である。

 問Cにおいて、遺伝子AとBの違いを正しく理解できた受験生であれば本問は然程難しくはありません。問Cが出来なかった場合、本問も芋づる式に間違える形となります。本問が記述式であればかなりの難易度ですが、選択肢式である点に温情を感じます。

コメント

 設問A以外は問題文や実験データに基づいた考察が必要な問題であり、事前知識よりは読解力・解析力が重要となる東大らしい問題です。標準的な知識問題であるAと比較的データを読み取り易いBとDは抑えておきたい所で、残るCとEが出来たか否かで差がついたのではないかと思われます。

 なおクマムシの乾眠に関する研究は東大理学部の國枝准教授の研究室で盛んに行われており、恐らくは本問題の担当者であったと思われます。

 

 

 

正四面体と電流 (1999年 東大理系 第3問)


 正四面体の隣り合う二点間で電流が流れるか否かという趣旨の問題です。電流と言われると少し特殊な雰囲気が漂いますが、実質的には道路の通行止め問題と同じように考える事が可能です。

(1)の解答

①辺ABが電流を通す場合
 残りの辺が電気を通すか否かに関わらず、AからBへは電流は流れる。このような事象は確率pで発生する。

②辺ABが電流を通さない場合
 辺AB間に直接電流が流れないので、AB以外の辺を迂回する必要がある。これは以下の図に対してAからBへ電流が流れる確率と等しい。

(A): ①~⑤のうち電流を通す辺の数が1以下の場合
 AからBに電流が流れることは無い。

(B): ①~⑤のうち丁度2つの辺が電流を通す場合
 ①と④または②と⑤が電気を通すときに限りAからBへ電流が流れる。2つの事象は同様に確からしくp2(1-p)3の確率で起こる為、合計すると2p2(1-p)3

(C): ①~⑤のうち丁度3つの辺が電流を通す場合
 電流を通す辺の選び方は5C3 = 10通りで、このうちAからBに電流が流れるのは①②③または③④⑤が電気を通す場合を除いた8通りである。各事象は同様に確からしく、それぞれが起こる確率はp3(1-p)2であるので合計すると8p3(1-p)2

(D): ①~⑤のうち丁度4つの辺が電流を通す場合
 電流を通す辺の選び方は5C4 = 5通りであり、いずれの場合もAからBへ電流が流れる。各事象は同様に確からしく確率p4(1-p)で発生するので、各事象について合計すると5p4(1-p)。

(E): ①~⑤全てが電流を流す場合
 この時AからBへ電流が流れ、起こる確率はp5である。

 従って上の経路においてAからBに電流が流れる確率は、(B)~(E)のパターンで電流が流れる確率を全て足し上げる事により、以下の通り与えられる。

2p2(1-p)3+8p3(1-p)2+8p3(1-p)2+p5 = 2p5-5p4+2p3+2p2

 辺ABが電流を流さない確率は1-pなので、②のケースでAからBへと電流が流れる確率は(1-p)(2p5-5p4+2p3+2p2)と計算される。

 最後に①と②の場合を足し合わせる事で、AからBへと電流が流れる確率を以下の通り計算することが出来る。

(1-p)(2p5-5p4+2p3+2p2)+p = -2p6+7p5-7p4+2p2+p


 辺ABが電流を通す場合は特に問題ありませんが、辺ABが電流を通さない場合は残りの辺に関する場合分けが生じます。その際、与えられた経路を二次元的に”押し広げる”ことで見通しが良くなります。

 今回は電流を通す辺の個数によって場合分けを行いましたが、その他にも辺CD(③)が電流を通すか否かで場合分けする解法も存在します。

 余事象を考え、先の図においてAからBに電流が流れない事象を考える事も出来ますが、25 = 32通りのうちAからBへと電流が流れる場合も、流れない場合も共に16通りなので手間は殆ど一緒です。

(2)の解答

 頂点BからFへ電流が流れる為には「B→A(E)→F」と電流が流れる必要がある。これが成り立つのは「BからA(E)へ電流が流れ」かつ「A(E)からFへ電流が流れる」時であり、これらの事象は互いに独立である。

 また(1)の結論からいずれの事象が起こる確率も-2p6+7p5-7p4+2p2+pで与えられるため、頂点BからFへ電流が流れる確率は(2p6+7p5-7p4+2p2+p)2となる。

 2つの四面体が面や辺を共有する場合は場合分けが一気に複雑になりますが、1つの頂点のみを共有しているのであれば、(1)で行った議論を2回繰り返すだけです。(1)が出来た受験生に取ってはサービス問題と言える内容で、取りこぼしは厳禁です。

コメント

 策を色々と弄するよりも、丁寧に場合分けを行って数え上げた方が早いタイプの問題です。辺ABが電流を通さない場合についての場合分けは、工夫によって解答時間を短縮する事が可能ですが、試験場ではあれこれ考えているよりは32通り全て調べ上げてしまった方が、結果として早いかもしれません。

 落ち着いた環境で解く上では難しさを感じにくい本問ですが、本番では数え上げや多項式計算を注意深く進める必要があり思いのほか時間を取られます。最終的な答えも余り綺麗ではない為、答えに確信を持ちづらい点も嫌らしさに拍車をかけています。

 ちなみに同年の文系ではp=1/2とした場合が出題されています。注意深く数え上げる必要があることは理系と同じですが、以降の計算はずっと楽なものになっています。

 

微生物の殺菌法 (2021年 東京医科歯科大)

 医科歯科の化学、とりわけ有機分野は大学の独自色が強く出る傾向にあり、その多くは医療に絡めた内容となっています。

 今年の医科歯科の有機化学は微生物の滅菌に関する出題となっており、去年から今年にかけて大流行した新型コロナウイルスを意識した内容となっています。

問題文及び設問

解答

問1: 下図参照

 与えられた分子式からエチレンオキサイドの不飽和度は1であり、不飽和結合を持たないことから環構造を持つ事が分かります。これを満たすのは以下に示す3員環エーテル構造のみです。

 
 エチレンオキサイドを直訳すれば「エチレンの酸化物」であり、その名の通り高温・高圧条件でエチレンと酸素を反応させることで工業的に合成されます。なお分子式C2H4Oで与えられる化合物はエチレンオキサイドとアセトアルデヒド(ビニルアルコール)のみです。

問2 (1): 2C2H4O + 5O2 → 4CO2 + 4H2O (2): 下記参照

 (1)はよくあるアルコールや炭化水素の燃焼反応と同じであり、両辺の原子数が釣り合うように係数を整えるだけです。

 (2)も反応自体は聞きなれないものですが、エチレングリコールの構造式さえ知っていれば、以下の通り問題文を化学反応式に”翻訳”するだけです。


 一般的には化学的に安定とされるエーテル化合物ですが、エチレンオキサイドのような3員環エーテル化合物はエポキシドと呼ばれ、例外的に高い反応性を持つ事が知られています。これは3員環の存在により分子が非常に歪んだ形になっている事が原因であり、エポキシドは水、アミノ酸、核酸など様々な分子種と反応することで分子内の歪みを解消しようとします。

問3: (1) 10種類 (2) 下図参照

 (1)に関しては化学というよりは数学における場合の数のような問題です。トリハロメタン類に含まれるハロゲン原子の種類に応じて以下の通り場合分けを行います。

① X1~X3が全て同じ原子
→ これはクロロホルム、ブロモホルム、ヨードホルムの計3通りです。

② X1~X3のうち2つが同じ原子で残り一つが別の原子
→ 2つ存在するハロゲンの選び方が3通り、残り1つのハロゲンの選び方が2通りなので全体では6通りとなります。

③ X1~X3が全て異なる原子
→ ブロモクロロヨードメタン(CHBrClI)のみの1通りです。

 以上①~③を合わせて答えは10種類となります。このうち光学異性体を持つものは③のブロモクロロヨードメタン(下図)のみとなります。X1~X3にどのハロゲンを入れるかは任意ですが、2つ以上記入してしまうと不正解です。


 今回はCl, Br, Iの3つのみで考えましたが、Fを含めると理論上20種類のトリハロメタン類が存在する事になります。考え方は本問と同様なので気になった人は自分で計算してみると良いでしょう。

 これは完全な余談ですが、炭素に4つの異なるハロゲンが結合したブロモクロロフルオロヨードメタン(CBrClFI)は、その単純さとは裏腹に化学合成が実現していない分子であるという事です。

問4: ホルマリン 

 医学部受験者であれば(そうでなくても)知っておかなければならない、基礎的な知識問題です。

問5: ウ、カ

 センター(共通)レベルの正誤選択問題であり、こちらも落とせません。なお、各文章の正誤に関しては以下の通り。

ア: 誤り。これはヒドロキシル基に特徴的な性質である。
イ: 誤り。なお、アセトアルデヒドはヨードホルム反応に陽性である。
ウ: 正しい。銀鏡反応の説明で、アルデヒド基の検出に利用される。
エ: 誤り。ホルムアルデヒドの酸化によって生じるのはギ酸である。
オ: 誤り。ホルムアルデヒドを含むアルデヒド類は中性化合物である。
カ: 正しい。フェーリング反応の説明で銀鏡反応と同様にアルデヒド基の検出に利用される。但し、ギ酸など一部の化合物はフェーリング反応に対して陰性なので注意。

問6: (1) クメン (2) 下図参照

 (1)はフェノール合成に関する知識問題であり、極めて基本的です。

 (2)ではp-クレゾール合成時に起こる副反応を図3-2と問題文を参考に考えます(原子量は H = 1, C = 12, O = 16)。

 化合物Eの分子量は136なので1.00 x 10-3 molは136 mgとなり、ここから完全燃焼で生じる二酸化炭素及び水の重量から136 mgを構成する炭素、水素、酸素の質量はそれぞれ108, 12, 16 mgとなります(文脈上他の原子は含まれないと判断)。

 よって化合物Eの組成式はC9H12Oであり、分子量から判断して分子式も組成式と同一である事が分かります。加えて副反応ではイソプロピル基は変化しておらず、得られる化合物Eは塩化鉄(III)に対する呈色反応からフェノール性水酸基を持つ事が推測されます。

 以上より化合物Eは下図に示すp-イソプロピルフェノールであると判断されます。また、イソプロピル基の酸化分解によってp-クレゾールと共にアセトンが得られたことから、下図赤色部分の炭素を考える事で化合物Eと共に生じた分解産物Fはホルムアルデヒドであると推測されます。

コメント

 医療や時事問題に関連する内容を出すのは医科歯科における例年の傾向ですが、ここ2年については分量・難易度の両面から非常に解きやすくなっています。本問に関しても問6(2)は発想力が必要でやや難しいですが、残りは基礎~標準レベルの問題が並んでいます。

 コロナウィルスの影響による現役生の習熟度不足を配慮した可能性もありますが、医科歯科受験者層のレベルを考えれば完答を前提としたい所です。

 但しこの難易度傾向が来年以降も続く保証は無いため、医科歯科受験者は2019年以前の過去問にも目を通しておくべきと思われます。

 

 


オゾン分解産物の行方 (2021年 東大化学 第一問-I)


 今年も東大化学の第一問は有機分野からの出題であり、例年通り2つの独立したパートから構成されています。前半部分は分子式C6H12Oで与えられる6つの構造異性体に関連した構造決定の問題です。

 与えられた分子式より不飽和度は1であるため、いずれの異性体も二重結合か環構造を一つだけ持つと考えられます。加えて実験5の結果からケトン及びアルデヒド(カルボニル化合物)の可能性が除かれる為、化合物A~Fはアルコールかエーテルのいずれかとなります。

解答

ア: 下図参照

 問題文及び各実験の結果から化合物Aに関して以下の情報を得る事が出来ます。

・不斉炭素原子を1つだけ持つ(問題文)
・ヒドロキシル基を持たない(実験1)
・炭素-炭素或いは炭素-酸素二重結合を持たない(実験2, 5)

 上記の情報から化合物Aは環構造を持ったエーテル化合物であると推測する事が出来ます。このうち5員環構造を持つものは以下の4つのタイプに分類されます。

① 5員環エーテル上の水素原子1つがエチル基に置き換わったタイプ
② 5員環エーテル上の水素原子2つがメチル基に置き換わったタイプ(同一炭素)
③ 5員環エーテル上の水素原子2つがメチル基に置き換わったタイプ(異なる炭素)
④ シクロペンタン上の水素原子1つがメトキシ基に置き換わったタイプ


 このうち不斉炭素原子を1つだけ持つのはタイプ①に属する2つのみです。これらの化合物は他の実験事実とも特に矛盾しない為、これが正答となります。

問イ: 下図参照

 同様に、問題文及び実験結果から得られる化合物Bの情報は以下の通りです。

・不斉炭素原子を1つだけ持つ(問題文)
・二級アルコールである(実験1, 3)
・炭素-炭素或いは炭素-酸素二重結合を持たない(実験2, 5)
・ヨードホルム反応を示す(実験4)

 上記の条件を満たす4員環化合物を考える訳ですが、今回は酸素原子がヒドロキシル基に使用されている為、4員環はシクロブタン骨格に由来するはずです。加えて化合物Bが不斉炭素を1つ持ち、ヨードホルム反応を示す2級アルコールである事を考慮すれば、考えられる構造は以下の1通りのみとなります。

問ウ: 下図参照

 同じように問題文と実験結果から化合物Cの構造情報を集めます。

・不斉炭素原子を1つだけ持つ(問題文)
・3級アルコールである(実験1, 3)
・炭素-炭素二重結合を1つだけ持つ(分子式、実験2, 5)
・水素付加による還元反応によって不斉炭素原子を失う(実験2)

 2番目及び3番目の条件から、化合物Cは炭素-炭素二重結合を1つだけもつ鎖式の3級アルコールである事が分かります。これだけでは候補がそれなりに存在して絞り込みが難しいですが、1番目及び4番目の条件を併せて考える事で化合物Cの構造を以下に示す1通りに絞り込むことが可能です。


 化合物Cの不斉炭素原子には、ヒドロキシル基、メチル基、エチル基、ビニル基が結合していますが、水素還元によってビニル基がエチル基に変換されて不斉炭素原子が失われます。このタイプの不斉炭素原子の消失は頻出なので是非覚えておきましょう。

問エ: 下図参照

 化合物Dに関して得られる情報は以下の通りです。

・不斉炭素原子を1つだけ持つ(問題文)
・ヒドロキシル基を持たない(実験1)
・炭素-炭素二重結合を1つだけ持つ(分子式、実験2, 5)
・水素付加による還元反応によって不斉炭素原子を失う(実験2)

 2つ目及び3つ目の条件から、化合物Dは炭素-炭素二重結合を1つだけもつ鎖式のエーテル化合物であると分かります。丁寧に設問でも述べられている通り、1つ目及び4つ目の条件を考慮することで、化合物Dの構造は以下の通り決定出来ます。


 基本的な考え方は前問と同様であり、ビニル基がエチル基に還元されることで不斉炭素原子が失われます。

問オ: 下図参照

化合物E及びGの構造

 まず化合物Eから考えます。問題文、分子式及び各種実験結果から化合物Eに関する以下の情報を得る事が出来ます。

・不斉炭素原子を1つだけ持つ(問題文)
・一級アルコールである(実験1, 3)
・炭素-炭素二重結合を1つだけ持つ(分子式、実験2, 5)
・オゾン分解によりアセトアルデヒドを生じる(実験6)

 従って化合物Eは一級アルコールに起因する「-CH2-OH」の部分構造を持ち、更に実験6でアセトアルデヒドを生じる事から「C=CH-CH3」の部分構造を持つ事が推測されます。この2つの部分構造と不斉炭素原子を1つ持つ事を踏まえると、化合物Eの構造は下図の通りと考えられます(幾何異性体は区別しない)。


 化合物Eのオゾン分解によって、アセトアルデヒドと共に不斉炭素原子を持った炭素数4のアルデヒド(化合物G)が生じます。このアセトアルデヒドを還元して得られる二価アルコールは不斉炭素原子を失っており、実験7の結果と矛盾しません。

 なお、化合物Eがシス体かトランス体であるかは化合物Gの構造に影響せず、今回の実験だけではどちらの立体であるかを判断する事は出来ません。

化合物F及びHの構造

 最後に化合物Fの構造ですが、実験2の結果から化合物Eの幾何異性体、或いは二重結合の位置のみが異なる構造異性体であると推測出来ます。更にオゾン分解反応によって炭素数5の化合物が生じる事から、化合物Fにはビニル基(-CH=CH2)が存在すると推測出来ます。

 従って化合物Fの構造式は下図の通りであると推測され、理論通りオゾン分解が進行したと仮定すればホルムデヒドと共に炭素数5のアルデヒド(化合物H’)が生じると予想されます。


 ところが実験8に述べられている通り、化合物Fのオゾン分解で生じる化合物Hは図1-1の例によって生じる化合物H’とは異なる構造を持ちます。確かに化合物H’は分子式及び銀鏡反応を示す点では条件を満たしていますが、不斉炭素原子を1つしか持っておらず、化合物Hの示す条件と一致しません。

 ところで化合物Hにはヒドロキシル基とアルデヒド基が共存しており、リボースやフルクトースといった糖類と同様に、環構造を取ることが出来ると考えられます。このようにして得られる環状化合物は2つの不斉炭素原子を持っており、化合物Hの性質に合致します。

 また環状化合物そのものに還元性はありませんが、グルコースなどと同様に水中では還元性を示す化合物H’との化学平衡にあり、全体として還元性を示すと思われます。

問カ: (a)-ヒドロキシ (b)-水素 (c)-難しくなって

 アルコールやエーテルの分子間力と沸点に関する基本的な問題です。後半は立体障害の話などが出てきますが、要は沸点が低いアルコールの方が水素結合を形成しにくいという考え方さえできていれば特に難しくはありません。

 但し空欄(c)に何を入れて良いか迷った受験生は少なからずいたのではないかと思います。

コメント

 最後の化合物Hに関しては糖の化学平衡や還元性に着想を得て、環状ヘミアセタールとなる事を思いつくことはかなり厳しかったと思われますが、残りの化合物に関しては与えられた情報を精査してゆけば正しい構造に辿り着くこと自体はそれほど困難ではありません。

 しかしながらC6H12Oで与えられる分子は多種多様であり、与えられた情報を上手く処理する能力が問われます。本問に関しては正答に辿りつけるかに加えて、いかに手早く解き切る事が出来るかという点も重要になっています。

 可能性のある構造全てを答える必要のある問アは別として、問イ以降で解答する化合物はいずれも答えが1通りであることは保証されています。このような場合、一から理詰めで構造を絞り込むのではなく、とりあえ有り得そうな化学構造を描いてみて、問題文や実験結果と矛盾が無い事で正答とするといった思い切りの良さも重要です。

 問オは難易度が高いため試験時間内での解答は厳しいかもしれませんが、それ以外の問題については完答しておきたい所です。

 


 

素数とエラトステネスの篩 (2021年 一橋大)

 京大数学のお株を奪うような非常にシンプルかつ興味深い設問です。

 Wikipediaに掲載されている情報によれば1000以下の素数は全部で168個存在するようですが、円周率の桁宜しく素数を丸暗記しているような猛者でもない限り全てを試験場で書き出す解法は現実的ではありません。

 1000以下の自然数から「素数になり得る候補」をどのように絞り込んでゆくかが、本問を解く上での鍵となります。

解答

 1000以下の正の整数全体の集合をU、Uの要素のうち2の倍数、3の倍数、5の倍数であるもの全体の集合をそれぞれA, B, Cと定義する。更に、ある集合Xに属する要素の総数をn(X)のと表現する。

 2, 3, 5はどの2つも互いに素である為、A∧B, B∧C, C∧A, A∧B∧Cはそれぞれ1000以下の正の整数のうち6, 15, 10, 30の倍数であるもの全体の集合である。従ってこれら集合に属する要素の総数は以下の通りである。

n(A) = 500, n(B) = 333, n(C) = 200
n(A∧B) = 166, n(B∧C) = 66, n(C∧A) = 100, n(A∧B∧C) = 33

 従って、A, B, Cの和集合(2, 3, 5の少なくとも1つ以上で割り切れる1000以下の正の整数)の総数は以下の通り計算できる。

n(A∨B∨C) = n(A)+n(B)+n(C)-n(A∧B)-(B∧C)-n(C∧A)+n(A∧B∧C)
     = 734

 更にUの要素のうち2でも3でも5でも割り切れないものの集合をDとすると、DはA∨B∨CのUに関する補集合である為以下の式が成立する。

n(D) = n(U) – n(A∨B∨C) = 1000 – 734 = 266

 ここで2, 3, 5を除く1000以下の素数は全て集合Dに属する。従って集合Dに属する素数が247個以下であることを示せば良い。

 ここで5より大きい6つの素数7, 11, 13, 17, 19, 23について、それぞれの2乗はいずれも合成数かつ集合Dの要素である。更に上記6つの素数から異なる2数を選んで得られる積は全部で6C2 = 15個存在するが、これらもまた合成数かつ集合Dの要素である。

 従って集合Dには少なくとも6+15=21個の合成数が属しており、これにより集合Dに属する素数は最大でも266-21=245個である。よって2, 3, 5を含めても1000以下の素数は高々248個であるので、1000以下の素数が250個以下である事が証明された。

コメント

 上記解答の背景となっているのが、「エラトステネスの篩」と呼ばれる有名な素数探索アルゴリズムです。

 これは2以上N以下の自然数(1は素数でない為最初から除かれている)について、2の倍数、3の倍数、5の倍数….と小さな素数から順番にその倍数(自身を除く)を除外してゆき、素数が√Nに達するまで繰り返すという非常に単純な方法です。

 本問はN=1000(√N ≒ 31.6…)なので、2から31まで素数について順に「篩」にかけることで1000以下の素数を全て求める事は出来ますが、流石にそこまでしている時間はありません。そこで解答では2, 3, 5という3つの「篩」を利用する事で、素数となる可能性のある自然数の絞り込みを行う事としました。

 当初はこの時点で素数の候補が250以下になると期待していたのですが、3つの「篩」では証明を完了するには不十分であり、結局素数2, 3, 5を含めて269個の自然数が残ってしまいました。

 そこで今回は残る素数の候補から19個以上の合成数を直接除外する方針を取ることしました。但し19個を直接書き出そうとするとかなり大変である為、上記解答のように工夫が必要となります。

 シンプルで興味深い題材で歯ごたえはありますが、さりとて全く手が付かない訳ではない絶妙な難易度設定となっています。

備考

 2, 3, 5, 7と4つ「篩」を利用すれば、1000以下の素数が250個以下となる事を直接証明する事が出来ます(2, 3, 5, 7のいずれでも割り切れない1000以下の自然数は全部で228個)。4つの要素に対する和集合の取り扱い方を知っていれば、計算量こそ多いですが試験時間内に解答する事は十分に可能です。

 

安定同位体の実在性 (2021年 慶応大・医)


 今年の慶応医学部最初の大問は8つの選択肢から条件に合うものを2つ選ぶという内容で、僅かに二題しかありません。いずれも内容は標準的ですが、1つでも間違ってしまえば大問の半分を落とすことになる為、緊張感はかなりのものです。

 また最初の設問では誤りを含む記述、後半の設問では正しい記述を選ぶ形式となっており、問題文の見落としには要注意です。

1の解答: ③と⑦

①及び②: いずれも正しい。原子番号が同じで中性子数(質量数)が互いに異なる各種は同位体と呼ばれますが、同素体とは全く異なる概念です。

③: 誤り。電子親和力は原子が電子1つを受け取って1価の陰イオンとなる際に放出されるエネルギーを指します。なお希ガスやベリリウムなど一部の原子は電子親和力が負の値を取る為、こうした原子に関しては判断が難しい部分があります。しかし、他の選択肢を考えるならば③を解答の1つとすべきと判断します。

④: 正しい。不対電子は基本的に不安定なので他の不対電子を持つ原子との間に共有結合を形成し、この不対電子の数は原子価と一致します。

⑤: 正しい。原子番号の比較的小さい原子は1つ以上の安定同位体を持つ事が普通ですが、唯一の例外として原子番号43番のテクネチウム(Tc)が挙げられます。テクネチウムは中性子と陽子の比率に関する要因から安定同位体を持つ事が出来ず、1937年に初の人工放射性元素として発見されるまで長らく、周期表における空欄として存在し続けていました。

 なお、現在ではスペクトル観測からベテルギウスなどの赤色巨星にはテクネチウムが存在する事が報告されており(wikipediaより)、これを「天然」に含むのであれば本記述は誤りという事となってしまいますが、おそらく作問者はこの事は念頭に入れていないものと思われます。

⑥: 正しい。電子殻が収容可能な電子数は、内側(K, L, M, …)から順番にn = 1, 2, 3, …とすると2n2で与えられます。

⑦: 誤り。遷移元素は周期表の3~11族までを指しており、12族元素は遷移元素に含まれません。

⑧: 正しい。希ガスを含め、原子の第一イオン化エネルギーは周期表の右上に向かって大きくなります。なお、第一イオン化エネルギーが最大の原子はこの原則に従ってヘリウムとなりますが、最小の原子は左下のフランシウムではなくセシウムのようです。

2の解答: ③と⑧

①: 誤り。陽極では塩化物イオンが酸化されて塩素が発生します。

②: 誤り。電子は負極から正極に向かって流れだします。

③: 正しい。鉛蓄電池の負極は鉛の単体、正極は酸化鉛(IV)です。

④: 誤り。鉛蓄電池の放電反応では、酸化鉛(IV)ではなく硫酸鉛(IV)が生成します。

⑤: 誤り。①と同様に陽極では塩素が発生します。

⑥: 誤り。陰極では銅(II)イオンが還元されて金属銅が析出します。

⑦: 誤り。ボルタ電池では希硝酸ではなく、希硫酸を使用します。希硝酸は酸化力の強い酸である為、副反応の進行が懸念されますが詳細は不明です。

⑧: 正しい。両電池は使用する電解質や内部構造に違いはありますが、いずれも正極に酸化マンガン(IV)、負極に亜鉛が使用されています。

コメント

 問われている内容の大部分は標準的ですが、1番の⑤や2番の⑧などややマニアックな選択肢も含まれています。特に⑤については日頃から周期表や資料集などを眺める習慣のあった受験生であればテクネチウムの存在に気付いたと思われますが、そうでなければ厳しいと言わざるを得ません。

 とはいえ、しっかりと学習している受験生であれば多少マニアックな選択肢が存在したとしても消去法などにより対処可能であり、難易度しては低めです。

 但し上記のように、「天然」の範囲を宇宙空間まで拡張してしまうと⑤と記述も誤りとなってしまうため、この部分を大学側が如何に判断するのかは気になる所です。

玉入れ問題に関する話③ (2021年 早稲田大・理工)


 最近玉入れ問題絡みの記事をアップした中でややタイムリー(?)な問題が、今年の早稲田理工で出題されました。今回は箱に玉を入れる方法の総数ではなく、各箱に入った玉個数の最大値と最小値の差が主役となっています。

解答

(1)の解答


 玉を入れ終えた後を考えるとlとしてあり得る値は1か3のどちらかである為、この時点でP0=P2=0となることが分かります。あとはP1とP3をそれぞれ計算すれば良いのですが、P1は状況推移を考えるのが少々面倒である為先にP3を計算して余事象を利用する方が簡単かつ正確です。

(2)の解答


 2つの玉が同じ箱に入る場合は良いのですが、2つの玉が別々の箱に入る場合、n = 2とn≧3による場合分けが必要となります。玉の数が少なく考えやすいだけに、ケアレスミスには要注意です。

(3)の解答


 基本的には(2)と同様に起こり得る事象を全て網羅していく方針が有効で、やはりn=3とn≧4で場合分けが生じます。P2に関しては直接求めることも可能ですが、(1)と同様に余事象を考えた方が安全かつ早いです。 

コメント

 玉の個数kを一般の自然数で考えた場合は難問となりますが、本問では2つまたは3つの玉で考えれば良いく状況はそれほど複雑にはなりません。計算量も比較的少なく、今年の大問の中では最も解き易い部類に入るのではないかと思われます。

 その分ケアレスミスの類は命取りであり、特に(2)以降の設問でnに関する場合分けを行わなかった場合は大幅な減点を覚悟しなければなりません。

確率論と座標 (2019年 浜松医科大)

 確率と平面座標を融合させた面白い切り口の問題です。

解答


 事象AとBが互いに独立であるという事は「P(A∩B) = P(A)P(B)」が成立する事と互いに同値です。従ってベン図を利用して点Q及びRの座標をP(A), P(B), P(A∩B)で表現すると見通しが良くなります。

 以降は平面座標に関する問題に帰着されるわけですが、3点が同一直線上に存在する為の条件はベクトルを用いて考えています。直線の傾きを利用した解法も一考の余地はありますが、場合分けの手間を考えるとベクトルの方が楽でしょう。

コメント

 確率論における独立の定義やベン図の使い方を理解していれば、実質的には平面図形に関する論証問題となります。切り口こそ目新しいですが難易度自体は標準的であり、医学部受験者であればミスせず最後まで解き切りたい所です。